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第61回 野口泰司

『畑仕事を始めた都市の人たち』

相模原のYさんの住宅「木の家13」の設計が始まっている。
ご主人は土、日の休みを利用して近くのかなり広い畑に出掛ける。平日には奥さんが雑草取りや除虫、水遣り等に出掛けるのだと言う。打ち合わせに訪ねると帰りには必ず畑に寄って、見事に育った大根や小松菜、水菜等を引き抜いてお土産にしてくれる。

そんな訳でYさんの住宅には、なんと、耕運機を乗せて畑間を行き来する車の為の発着所(駐車スペース)が計画されることになった。駐車する車の荷台のすぐ後ろのバルコニー下には、小さな耕作道具を置いたり収穫した野菜を広げられる小さな土間が用意され、その端に設けられた深いシンクで泥を落とされた野菜は、続く濡れ縁に並べられる。濡れ縁に面する掃き出し窓を開けると、そこは厨房、食堂である。 畑から厨房、食堂までが見事に関係付けられたプランが出来上がって、今、私はうきうきしている。

増改築の工事が始まるMさんのご主人も、定年を迎えて、車で通える距離に広い土地を入手し、畑仕事に精を出している。 川越から湯河原へ一昨年暮れに移り住んだ「木の家9」のKさんの移住の目的は「庭で畑を耕し、近くの海で釣りをする」ことであった。 この三月末竣工する「木の家12」のとても可愛らしい赤ちゃんのいる若い夫妻も、駐車場を、暫くは畑として使いたいと言っている。 そんなことを、妻にはなしたら、「この雑誌でも特集を組んでいるわよ」との話が返ってきた。

都市生活者の中に、畑仕事を楽しもうとする人達の数が確実に増えているようだ。

私自身も、かつて経験したことであるが、汗を流し、大地に鍬を入れて種を蒔き、苗を植え、そこに育つ作物に自らの手で触れ、太陽や大地の恵み、自然の摂理を実感する喜びが、そうした人達から、間違いなく伝わってくる。

2006/04/01

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