HOMEコラムINDEX>建築家のコラム
第60回 中村高淑

『構造計算偽装問題 (耐震偽装)』

昨年末に起きた姉歯元建築士らによる構造計算の偽装事件は大変な社会問題となり、専門家のみならず一般の方々にも大きな関心を寄せるところとなりました。

当初、姉歯元建築士という特殊な個人の職業倫理に反した犯罪のようにも思えました。
しかし、マンションやホテル建設に絡む建設会社やデベロッパー、コンサル主導型の企画・発注・設計・建設プロセスの問題が浮き彫りになり、更に第二、第三の姉歯と思われる設計者による問題が報道され、建築業界の信用は地に落ちたといってもいいでしょう。
この事件は一介の構造設計者における職能倫理の問題だけに留まらず、その背景には業界のみならず、法律および行政、はたまた政界にまで及ぶ相当根深い要因が潜んでいたと考えます。

もちろん犯罪行為に関与した者が一番悪いのですが、関係する資格や法律、行政がモラルの無い個人や悪意を持った集団の前では如何にもろいものかとショックを覚え、それを助長する温床が「土建国家・日本」にはあったように思います。

この事件の根源的な問題は「設計・施工の分離」の原則が守られていないことです。

日本以外の先進国はすべて、中国など発展途上国においても世界の常識は「設計・施工の分離」なのです。日本では古くから棟梁による普請が一般的だった土壌もあり、一般の方もあまりこのことを知りません。
日本の建築士法も原案は先進国にならって「設計・施工の分離」に基づいて立案されました。しかし、不幸なことに大手ゼネコンを中心とした勢力による圧力に時の総理大臣が屈し、「設計施工」も認める条文に書き換えられてしまいました。
なぜか?建前上は設計施工のメリットをあれこれ謳っていますが、本音は「設計施工」はやりたい放題で「おいしい」からです。第三者にあれこれうるさく言われたら儲かりません。これが土建国家日本、汚職天国日本、談合天国日本を生んだ最大の元凶です。(ちなみに現在は公共建築は設計施工一貫は禁止され、それぞれ分けて発注されることが原則になっています。)

こうして、次第に力と金を持った施工会社やデベロッパーの傘下のもと、弱い立場の下請け建築士は「利潤追求」という歯車のひとつとして組み込まれるようになってしまったのです。

この問題の少し前には「悪徳リフォーム」による詐欺事件が話題になっていました。これも消費者の「無知」につけ込んだ犯罪です。規模にもよりますがリフォーム業者は建設業の許可が必用ありません。簡単に詐欺会社を作れるのです。
大昔は地域の顔見知りの職人に普請を依頼して、工法もデザインも価値観それほど多くはありませんでしたから、信頼が成り立っていました。
地域社会が崩れた世の中には無知につけ込む悪い人間がたくさんいます。大手ハウスメーカーで名前を知っていれば信用というのも間違いです。(ちなみにハウスメーカーも諸外国には無い日本独特の企業形態です。住宅ですとハウスメーカーのシェアは半分に満たないにもかかわらず係争案件の数の多さは目を見張るものがあります。
「健康と権利と財産」は自分で守らないといけないのです。

とかく我々建築家はデザイン面や計画の斬新さで評価されたり話題になることが多いのですが、それ以前に重要な職能としてオーナーや建物利用者の「生命と健康、財産や権利を守る立場」にあることが大前提にあります。
それには施工会社や販売会社、メーカーとは利害関係を共にしない「独立した立場」にあって初めて実現できるのです。

では建築家に依頼すれば安心かというと、残念ながら建築家と呼ばれる人のなかにも、十分な職業倫理や技術的な担保の無いまま開業してしまう人もいるのです。先日、名古屋では自称建築家による無資格設計が発覚、逮捕されました。堂々と雑誌やTVにも出ていたというから驚きです。今後この手のモラルの無い人は社会的な制裁を受けるのでしょうが、どうも日本の建築システムというのは自分で注意しないと安心は買えないようです。

今回の事件で建築確認申請や完了検査などの第三者である指定検査機関のチェックが有効に機能していない実態も明るみになりました。真の意味での「パートーナーを選ぶ」ことが重要です。今回の事件を気にそうした機運が高まることを期待します。
そして私自身も微力ながら一級建築士のひとりとして、更に高度な知識を要求される専門家として、自己研鑽を積み重ねるとともに建物の質の向上を通じて社会的貢献に寄与できればと思います。

2006/03/26

>コラムINDEXへ戻る