HOMEコラムINDEX>建築家のコラム
第51回 池和田有宏

『我が家の改築工事奮戦記』

最近私の住宅兼事務所の建築工事がやっと終わった。これは全く施工会社の都合なのだが、一年以上の長期戦になってしまった。築30年の建物は、工事の進行と共に、設計当時の強い思い入れを、記憶の中から呼び覚ましてくれた。以下の文章は印象に残った工事過程の思い出である。

・板張りの外壁
外壁に使った檜の縁甲板が傷んだので貼り替えることにした。厚さ15ミリだと長い間に反り返ってくるので18ミリに変える。やがて来るかも知れぬ地震による火災に備えて不燃処理を施す。以前使った事のあるメーカーの製品は、何故か表が鋸目のままでざらざらとし、裏面の方が滑らかなのが気になる。今回は別会社に、建築側で仕上げた物を送って処理してもらう事にする。但しメーカー指定の塗料はどうも塗膜が厚いのが気になる。塗膜の薄い油性の物に変えてみるが、これが後々まで尾を引く結果となる。雨が降ると薬品がしみ出して、乾くと白い粉が板に残る。塗装は黒いので白い粉がやたら目に付く。舐めてみると酸っぱいが、身体に異常は無いので毒性はないようだ。水で洗うと直ぐに溶ける。これを繰り返す内にだんだん白い粉が目立たなくなる。しかし完全に出なくなった時は、不燃効果も無くなっているのだろうか?

・洋バス
我が家では年老いた母親が泊まりに来る度に困った問題がいつも起きる。二階の彼女の部屋にシャワーは付いているのだが、風呂は事務所の脇のバスルームを使用することになる。その為シャワー室を浴室に変える事にしたのだが、何しろ場所が狭くてユニットバスが入らない。「何故洋バスにしないの?」との一言で方向が決まる。選んだのはフィリップ スタルクの白い角形のすっきりしたデザイン。明るいトップライトの下、設置すると腰壁の白いモザイクタイルとクリーム色のリシン壁、それに木製の小窓が相まって、なかなかシックである。我が家の既存部分にはアルミサッシュが一つもない。早速母親に空のバスタブに試しに入ってもらう。静かに身を横たえ、目を閉じて一言「なんだか棺桶に入っているみたいね」

・土間コンクリート
さる家具屋のショールームの床仕上げが気に入っていた。元々倉庫だった所を改装したので、凸凹のあるコンクリートに白ペンキを塗ったままの荒い仕上げなのだが、なかなか風合いがある。最初はそれで増築部分の床仕上げにしたいと考えていたのだが、だんだん迷い始める。結局コンクリートの平板にする。ブロックのようなざらついた仕上げの物は無いものかと考えていたら、ホームセンターでそれらしい物を見つける。厚さも薄いし値段も安い。床暖にも最適だ。ただ残念なことに角に面が取ってある。ふと裏返すと面がない。少々泥が付いたりして、扱いの荒い物も混じっているが、電動ブラシでサンダー掛けをすれば使えそうである。私は石の見本を見ると、裏返した面の方が良いと思うことが多々あるが、その癖が出たようだ。目地を細めにして貼ってもらうとなかなか感じがよい。後で撥水剤を塗るとセメントの粉っぽさが無くなって肌に締まりが出る。思わず「この方法は企業秘密にしておきたいな」等と了見の狭いことを考えたりする。

・カーテン
「タッサーシルクのカーテンにしたい」と妻が言う。どうやらネットで店を見つけたようだ。床材が安く済んだので希望通りに青山まで買いに行く。中村好文氏が設計した店で、彼も住宅の設計でもよく使うそうだ。材料費が高いので自分達で作ることにする。 一見柔らかそうに見えて、以外にごわごわと堅い。さすが野生の蚕の繭だけある。ただその為、一々場所毎に掛けてから採寸する必要があり、やたら手間が掛かる。絹の軽さを生かすために、襞は作らずに暖簾のように掛けることにするが、問題は吊る金具をどうするかだ。天井はH型鋼とデッキプレートの表しである。既製のカーテンレール等とても合わない。結局鉄骨屋に細いステンレス棒を溶接してもらう。一方カーテン上端は折り返して銀色の鳩目を付ける。両者を繋ぐ金具をネットで探してみる。カーテンフックは色々あってなかなか勉強になる。カーテン金具一つ取ってみても奥が深い。 が、結局ネットでは買わずに、ホームセンターで見つけてきた、凧糸程の太さのステンレスワイヤーのキィリングを使用する。やってみると絹地のカーテンの軽さには最適である。 これをカーテンリングに使ったのは、私が初めてなのではと、密かな満足感に浸る。

・コルテン鋼
私は鉄を線的な表現に使う場合の塗装の色で、よく迷いがちになる。それで今回は鉄本来の生地色を出すために、コルテン鋼を外部廻りの開口部に使うことにする。但し商品となっている、既に酸化皮膜を施した物はきれいすぎるので、生のままのコルテン鋼にする。その為には一旦赤錆を出さなければならない。とてもよそ様の家では使えない。幸い(?)工事期間が長かったので赤錆は充分広がり、周囲も充分赤錆色に染まっている。何しろ一年間も鉄骨が風雨に晒された成果である。暇を見て自分で赤錆を落としてから、ボイル油でぞうきん掛けのように拭き取ると、見事な鉄本来の色が表れて来た。やはり鉄は鉄らしく表現するのが一番だ。“コルテン鋼ボイル油押さえ”である。

・エピローグ
最近頼みに来るお施主も変化してきた。
曰く「きれいな設計をする建築家の方々は沢山いるのですが・・」と
「そうか、私の設計は汚いのだろうか?」
彼は傍らのコルテン鋼の柱を指してこの味が気に入っているという。
私はほっと安心して、こういう自分を幸だと思う。

2005/12/30

>コラムINDEXへ戻る