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第274回 宮 晶子

『 開口部の魔法 』

ずいぶんまえのことになりますが、イタリアのシチリアを旅行したときに、建築家のカルロ・スカルパが改修した小さな美術館を見に行きました。それは、パレルモにあって、もとは小さな修道院でした。
小さめの部屋がたくさんある建物で、歩みを進めていくと、部屋の入口がひとつまたひとつと見えてくるのですが、その入口がまるで額縁であるかのように、その枠の奥に作品が、そっと置いてあるのでした。部屋の入口と展示品が重なるように置かれているので、その前にくると一瞬、絵画を見ているような感覚になるのです。でも、もちろん、そこはくぐれて、そのさきには、やっぱりとなりのお部屋があるのでした。そのようなお部屋とお部屋をまたいでいく、そんな美術館での体験は、なんといったらいいか、2次元と3次元の間をいったりきたり、それが自分の身体の中に織り込まれていくというような感覚でした。壁にうがたれた出入口をまたぐこと、くぐること、それがとても意識された体験として思いだされます。また、お部屋の窓から見える空の景色もまた美しく、こころに残るものだったのですが、中庭のまわりに配された展示室をひととおりまわり、もときた中庭へ出るとふたたび、その窓の外がわの佇まいに出会います。それを眺めると、また部屋の中からの風景がはるかに思いだされて、2次元と3次元、もっといえば4次元をいったりきたりできるのでした。高いところにある窓なのでもちろん実際には出たり入ったり、くぐったりはできないのですが、そんなふうに魂が浮遊して自由に出入りできる気持ちになるような窓なのです。もちろん、窓があいていればいつでもこんな風な感覚になれるわけではありません。改修前の修道院時代の写真を見ても、ただ窓が並んでいるだけのようでした。スカルパはその窓の位置や数、その窓周りの装飾まで、まるでもともとそうだったかのように、さりげなく、しかし、まったく違う窓にかえていたのです。開口部にかけられたスカルパの魔法。これまでずっと、柱壁によって世界とつながりながら居場所をつくることをこころみてきたのですが、いま、この開口部の魔法のかけかたが、とても気になっています。もしその魔法のかけかたがわかったなら、お部屋の中にいながら、外にいるより外のことを意識する、お部屋の外にいながら、中より中のことを意識できる、そんな、小さなお部屋がいくつかつらなる小さなお家ができあがります。

2014/11/28

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