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第228回 栗原正明

『 久地円筒分水 』

以前ここでは「横浜の好きな場所」と言うテーマでメンバーが順番に文章を書く事になっていたけれど、今はその約束が無くなっている。
そこで今回は、川崎に有る「久地円筒分水(くじえんとうぶんすい)」について書いてみたい。

川崎と言うと、いまだに工業都市のイメージが強い。
しかしそれは市の東側、つまり海側の話しで、西側は住宅地の中に畑や林がちらほらと残る風景が広がっている。
そうした中を東西に流れるのがニケ領用水、その中間の分岐点に有るのが久地円筒分水だ。
ニケ領用水は江戸時代初めに農業用水として作られ、ここ久地で4つの堀に分かれるのだが、かつては水の分配を巡り周囲の村々の間で争いが絶えなかったらしい。
そうした問題を解決する為、1941年に作られたのがこの円筒分水で、サイフォンの原理によって中心部に水を噴き出させ、それを耕地面積に比例するように区切られた外周部に流す事で、流れ込む水量に関わらず一定の比率で分水が行われるようになっている。
これができた時代とその社会状況を考えると、まさに偉業と呼ぶべき事業だったに違いない。
現在はニケ領用水自体があまり利用されていないのだが、円筒分水は登録有形文化財に指定され、桜の季節には大勢の人がここを訪れる。
装置としての重要性が薄れた今、機能的な理由からできた美しい形と水の流れが一種の環境芸術となって、人々を惹き付けるのだろう。

2011/11/07

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