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第183回 鈴木信弘

『 ギターと建築のアナロジー 』

癒しブーム?にのってアコースティックギター人気がまた復活しています。特に鉄弦ギターの原型を作り出したMartin、ビートルズも弾いているGibsonというブランドに憧れた輩は多いと思いますが、現在その当時の古い楽器が見た目はボロボロですが、ワインのごとく「ビンテージ」物としてものすごく高値で取引されています。1960年代で50−150万、1940年代ともなると200万の金額がついているのです。故加藤和彦さんが所有しているMartin-D45というギターなど2000万の価値との噂を先日関係者から聞きました。(家が建つ!)
でもそんな高価なギターを構成する材料自体はMartinからキットで通販しており、製材された板部材や、荒削りのネックの材料を含めて送料込み7万円くらいなのです。とすると高値のギターも素材自体の金額はたいした事はなくて組み立て方、つまり料理の仕方で「音」も「価値」も変わるということです。
私自身もギター道にハマり、オークションをはじめ楽器屋へ通うこと10年。いろんなギターに触れてきたのですが、材種、乾燥度合いがよく、そして組み立てが良く、さらにきちんとした演奏者に十分に弾かれてきたギターは音が格段に良いのです。マニアの間では「音が枯れている」とか「木の音がする」というのですが、厳密には「木材の細胞レベルに含まれる水分が振動によって排出され、固有の振動を伝えやすくすることが音を変える」ようです。そういえばバイオリンも同じで、ストラトヴァリウスなどは個人の所有物というより有名な音楽院の所有物。優秀な学生に貸し出して何代にも受け継ぎ、上手な人が弾く事でどんどん音が成長し続けているという恐ろしい楽器なのです。
それはさておき、私の現時点でお気に入りの3本を写真左から紹介します。

■ Martin D−35 1969年
音の張り、コシ、大きさ、芯のある太さ。バランスがよく欠点がない。
傷だらけだが弾いていて飽きないギター。世界中のメーカーがこぞってまねをしても鈴鳴りの美しさが他の追従を許さない。

■ Ovation Super Adamas 1981年
ヘリコプターメーカーの作った革新的なギター。表板はポプラの1mm材をカーボンでサンドイッチしたハイブリット。何にも似ていない独特な姿。クラシカルな風貌で音も他とは比べようがない独特の音、先駆的。眺めていて飽きない。

■Gibson J-45 1966年
いい加減な荒っぽく雑な作りに見えるが、音となるとまとまりがあって、和音が固まりで伝わってくる、胴の振動が指に伝わるなど弾いていて気持ちがよくなる。良い意味でコードカッティングの歯切れが良い音。自己主張しないがしっかりと存在をして歌の伴奏に向いている縁の下の力持ち。

最後は自分のギターの自慢かい!と怒られそうですが、建築家コラムですから本当なら偉そうに「楽器の造り方と音の関係は、建築の造られ方と施主との関係に似ている云々」なんて書いた方が良いのでしょうが、自分はそこまで話すレベルに達しているとも思えないので「建築も同じ条件・予算であっても、設計内容によって方向性は大きく変わり、造り方(職人の腕)で出来上がり精度が変わり、価値の持続も変わる」というウンチクくらいに止めておいたほうが良さそうです。そういえば、ギターも初心者向けの中国製粗悪品は数千円で売っていますが、あんなものは私から言わせると楽器ではないのです。あれを最初に手にしたら一生音楽が嫌いになりそうなものばかりで、材料の無駄使いです。建築(住宅)にもそういう粗悪品?が結構ありますね。そんな住まいに最初に住んでしまったら、暮らしに夢を持たなくなりそうですから、ご注意です。
私も最初に住んだマンションで一度痛い目に遭いました。現在の仕事に対する原動力は今の暮しの問題点と不満からから生まれてきているのかもしれません。
だったら住み替えれば?と言われそうですが、計算してみると家が買えるほどの投資はしていないはずのギター。これには住めないんですよね。

2009/11/12

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