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第18回 北川裕記

『電車のひとびと』

いよいよ12月。そろそろ忘年会と称してお酒を飲む機会も増えてくる時期だと思います。
まぁ、この時期に限りませんが、お酒を飲んだ乗客の多い夜遅くの電車ではいろいろな面白いひとびとを見かけます。という訳で、今日は夜に限りませんが、私がこれまで見かけた電車のひとびとについて書いてみようと思います。

さて、私が最も頻繁に利用するのは、その沿線に住んでいる東急田園都市線です。東京近郊に限っても勿論すべての路線をよく知っている訳ではありませんが、「濃い」か「薄い」かと言われれば、「薄い」と言ってもおそらくあまりお叱りは受けない路線でしょう。
ところがその田園都市線にしてもなかなか侮り難い電車のひとびとがいたのでした。

その1:食べる女(ここは演歌調に「ひと」とお読みください。)
5年前、当時引っ越すことになる賃貸マンションを初めて見にきた帰りでした。暖かな日差しが心地良い冬の昼下がり、1両に数人しか乗客のいない隣の車両に彼女は乗っていました。今はそれほど珍しくありませんが、当時はまだ(少なくとも私にとっては)こういった都市近郊路線の電車のなかでものを食べているひとを見かけることはあまりありませんでした。何より私が感銘を受けたのはその堂々たる態度と食欲でした。渋谷までの約30分間、徐々に埋まる周囲の座席を気にする様子もなく、驚くべき集中力を持って菓子パン、お握り計5個を完食したのでした。

その2:お好み女(こちらはそのままお読みください。)
その1と同じ電車でした。彼女は途中で斜め前の席に座ったと記憶しています。こちらはすでに当時定着の兆しを見せていた「車内お化粧のひと」だったのですが、その徹底した作業の効率化に感銘を受けた次第です。その女性は座るや否やお化粧に取りかかったのですが、チューブから直接顔にファウンデーションを絞り出しました。私と隣に座っていた妻は当初そのあまりの迫力に圧倒されたのですが、徐々に落ち着きを取り戻し、その様子がお好み焼きにマヨネーズをかけるところに似ていたため、謹んで「お好み女」と命名させていただきました。

その3:逆さ男
もう15年程も昔のことです。まだ設計事務所に勤め始めたばかりだった私は夜遅くの電車に乗り込みました。今では想像できませんが、当時田園都市線は終電近くの電車はかなり空いていました。そんな電車に彼はいたのですが、どうもかなり飲んできた様子で、ぐっすり寝ていました。これだけならさして珍しい光景ではないのですが、私が何故彼のことをはっきり憶えているかといえば、その寝姿がとてもユニークだったからです。絵をお見せできれば良いのですが、背中=床→腿=座席下の立上がり→ふくらはぎ=座席→足の裏=背板、と通常の着席姿勢を律儀に逆転されていたのでした。

では、良いお年を。
2004/12/16

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