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第168回 安田博道

『 馬車道 』

知合いと関内ホールの前で待ち合わせることになった。なんでも、久しぶりに近くまで来たからちょっと事務所(=馬車道にある僕の職場)に寄るね、ということで待ち合わせに関内ホール(馬車道)を選んだ。
ちょうど昼時、相方はお腹がすいたと無邪気にお店を聞いてきた。いくつか候補があるが、せっかく横浜に来たのだからちょっと歴史を感じる(昭和の雰囲気が残る)「ポニー」という洋食屋さんを選んだ。
馬車道には似つかわしくない規模の関内ホールの前に、馬車道には似つかわしい姿でちょこんとあるのが「ポニー」である。

店内はそんなに広くなくて5・6坪といったところか。その日のお客さんは少なくて、50を過ぎた(であろう)男女が2人だけ。もう食べ終わっていて、木の柄をプリントしたメラミンのテーブルに肘をつけて話をしていた。僕と相方はそこからテーブルを一つ挟んで、14インチのテレビが見える位置に腰を掛けた。
当初あまり気にしていなかったけれど、中年をやや過ぎた男女の会話が断片的に耳に入ってきた。
「・あ、そうそうロッキー××××・・卵をがぶ飲みするシーンがあったじゃない?・・・・・・あの映画館、地下にそば屋があっ・・・・その帰りにここでハンバーグライス食べて××××変わってないねこの店は・・・」
何となく会話をつなぎあわせると、二人は数十年ぶりにポニーに来たらしい。馬車道に*映画館があったころ、よく二人で見にきた思い出の話だった。
しばらくぶりに訪れた馬車道はずいぶん変わっていたが、このポニーは昔のままで昔どおりの目玉焼きの載ったハンバーグライスが出てきた、とそんな話を交えて懐かしそうに語っていた。静かに、嬉しそうに語り合っていた。この二人、ご主人(らしき人)の表情は見えなかったが、肩越しに見える奥さん(らしき人)の時折見せる口元の笑みがなんともいい感じだった。

ちなみにハンバーグライスはここの定番メニューだけれど、チキンカツライスも負けずに美味しい。シンプルなつくりで、鶏のささ身を適温の油でカラッと揚げたカツに、キャベツとサラダが添えてある。それとライス。
店のおばちゃんが紙ナプキンを持ってきてフォークとナイフをコトンと並べてスタンバイ。チキンカツには旨味があって、ソースもいいけどカラシだけでもイケる。最近はもっぱらピリッと美味しく頂くことも多い。
その日は相方に「チキンカツライス」を薦めたが、彼は「ハンバーグライス」を選んだ。
馬車道は、そんな店が残るところです。

※ 横浜東宝会館 2001年11月29日閉館。

2009/07/18

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