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第126回 野口泰司

『 各地に点在する家族や仲間と結ばれる/陶房を持つ団塊世代夫妻の住まい 』

現在、陶房を持つ団塊世代夫妻の住まいの設計が進行中です。
名古屋の勤務先を定年3年前に退職、かねてから予定の瀬戸窯業高校専攻科で陶芸の基礎技術を2年学び、故郷大磯に居を移し、新しい生活を開始するK夫妻の住宅です。
団塊世代の夫妻二人の為の住宅。どんなことが、通常とは異なるテーマとなって浮かび上がってくるか。
そんなことを、漠然と頭の片隅で考えながら、設計が始まりました。

居間・食堂・厨房、将来のことを考えての日当たりの良い寝室、これにバリアフリーに配慮して隣接するトイレ・洗面脱衣・浴室。それに、希望面積に納まれば、日常使いが出来る畳コーナー。
日常、主婦の目が届くように、居間食堂に連続させた陶房(ご主人の初期スケッチ。ご主人は住まい建設に先立ち設計の講習会にも参加していましたが、自力設計では、理想の実現は無理と悟り、建築家探しを開始したとのことです)。そして炉を置く別棟の窯場。
以上が、K夫妻の当初希望された部屋の概要です。

私自身、陶芸には以前から興味があったものの、陶房についての知識がなかったので、まずは瀬戸に飛び、参考にすべき陶芸関係の施設を夫妻に案内して頂き、土練りから、焼成までの理解に努め、さらに後日、陶房レイアウトについての参考資料としてご主人からバーナード・リーチ著の「陶工の本」(中央公論出版)の抜き刷りを頂きました。
そのレイアウト例前後の記述から、本格的に作品製作に取り組む場合、製作工程前段階に、原料の受け取り・貯蔵、製作工程に続く完成品の展示・保管・包装・発送等の工程があることを知りました。
ご主人もその前後の工程までは考えていなかったようでしたが、私は、小規模で良いからこの前後の工程まで「陶房を持つ家」に盛り込むことを提案することにしました。

セラミック関係の研究・製品開発に携わっていて、パソコンを扱うのはお手の物のご主人に、HPやブログで製作日記を公開することも提案しました。興味を抱いた人達が、一人二人と車で乗り付けこの陶房を訪れるようになる、陶房を案内する、作品を見てもらう。時にはそれを買い上げてくれることも多くなるに違いない。
あるいは、瀬戸窯業高校専攻科で学んだ仲間たちが立ち寄り、話に花を咲かせる。同窓会だってあるかもしれない。
起こるであろうそんな出来事がイメージされてくると、なんだか、夫妻の未来が生き生きと楽しく見え出してきました。

そうした人達を迎えいれる為に、陶房をプライベートな住まいから独立させ、窯場と1棟にまとめ、中庭を介して、住宅棟と向かい合わせるように配置することにし、住宅棟の厨房・食堂の開口から中庭越しに陶房・窯場の大きな開口を通して、製作の様子が確認出来るようにしました。 二つの棟の端を結ぶ通路状のスペースを可愛らしい展示ギャラリーとし、小さな倉庫も用意します。
中庭には植栽や小さなテラス、テーブルを用意し、来訪者との歓談や、夫妻の仕事の合間の休憩の場所としたら楽しいに違いない!

そんな風にして、 「陶房を持つ家」が「各地に点在する身も知らぬ人達や、陶芸仲間達」と、見えない何本もの糸で結ばれる、そんなプランが結晶し始めました!

夫妻には成人した3人のお子さんがいます。すでに結婚された秦野に住むお嬢さんには愛らしい赤ちゃんもいると聞きました。2人の息子さん達も、近い将来、結婚し、居をいずれかの地に構え、子供を産み、3つの家族が折に触れこの家を訪れることにことになるに違い有りません。
大磯ロングビーチも近いことですし、畑もまだまだ多い環境でゆっくり子供達を遊ばせ、家族で一晩とまっていく部屋として、日常使いの和室コーナーに変わって、独立したロフトを用意したらどうでしょうと提案しました。
食堂の少し大きめの食卓と8脚の椅子が、皆が集まった時用に、ご夫妻の希望で用意されます。お孫さんたちにはこれに続く居間に座卓が用意されることでしょう。
こうして、この家と親元から独立していった各地のお子さん達家族を結ぶもう3本の見えない糸が、「ロフト」と言う一寸非日常的で楽しい部屋を誕生させ、居間食堂の広さや食卓の大きさ、椅子の数をも決めることになりました。

時には、居間食堂は、K家の長男でもあるご主人の所に両親兄弟家族が集合する場所にもなります。奥さんの親族がこの家を訪れることになれば、食卓は格好のおしゃべりの場になるのではと想像されます。
居間食堂前のテラスは、近くの親族や近隣の人達がちょっと立ち寄っていく場所になるに違いありません。
この家はそうしたK家兄弟家族や近隣の人達とも、又、見えない糸で結ばれていました。

「陶房」での充実した創作の日々と、気が付いてみると驚くほどたくさんの「見えない糸」で結ばれていた近隣や各地からの来訪者の出入りと賑わい。

「陶房を持つ団塊世代夫妻の住まい」の設計コンセプトが、鮮明に浮かび上がってきました!

「陶房を持つ団塊世代夫妻の住まい」の設計プロセスの詳細を、野口泰司建築工房HP「設計のプロセスを追う」でリポート開始しました!お楽しみ下さい。

還元焼成も出来る電気炉
2007/01/14

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