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第117回 栗原正明

『余技について』

少し前から細々と篆刻に取り組んでいる。図版として載せたのは、今年の干支である猪をかたどったもの。中国では亥年は豚の年になるそうだが、国内向けと考えてあまり気にせず作ってみた。篆刻と言う名の通り本来は篆字を扱う事が多いのだが、このようなものも面白い。

以前から書には長く親しんでいたので、それに比べれば篆刻は余技のようなものである。一方、本業の建築からすると書も余技になるから、篆刻は余技のまた余技と言う事になる。

ただ余技と言っても、それなりに時間と熱意を持たないと面白くならない。どうしても、一時的には本業そっちのけでそちらに夢中、と言う事になる。そして後から、自分はこんな事をしていて良いのだろうか、と反省する事になってしまう。

こうした余技は趣味としてやっているのだから、本来、本業とは無関係であって当然である。しかし、もし何か利する事があるとすれば、それはそれで結構な事に違いなく、反省する時の気持ちが少しは軽くなるかもしれない。改めてまじめに考えてみると、そう言う事が全く無いと言う訳でもなさそうだ。

例えば、異なった価値観に触れられる、と言う事は一つの利点としてあるように思われる。何か新しい仕事をしようとすると、時には常識的な価値観を疑ってみる事も必要だが、建築の世界にいて建築の常識を疑う、と言う事はなかなか難しい。別の価値観を頼りに相対的に考える、と言う事ができるとすれば、悪い事ではないはずだ。

今のところ残念ながら、そのような形で書や篆刻が役に立つ、と言う経験には恵まれていない。その代わりと言う訳ではないが、時折、設計した建物が竣工した時に自作の小品を進呈して、施主の方に喜んで頂ける事がある。文字通り、有り難い事である。

2007/08/26

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