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第105回 藤本幸充

『映画「かもめ食堂」』

久しぶりのフィンランドが見られるかと思い、仕事の合間に出かけた。
映画登場の街、ヘルシンキは波止場近くなどアアルト建築を見に行った25年前の光景と変わっていない様に見える。

「フィンランド人はあくせくせずゆったりと落ち着いている。」
「それは森があるからさ」
かもめ食堂最初の客となった青年がつぶやく。
「あした、世の終わりが来るとしたら何する?」
暫くして、 「おいしいものをいっぱい食べる!」
そうだよな!
繰り広げられる食堂の日常に観客も入り込んでいる感じ。
特に劇中、山があるのでもなく中庸な感じがいい。

ここのキッチン、カウンターで客席と仕切り、中央に島状のバーナーカウンター。盛り付けはここで行う。その後ろ、中庭に面するハイサイドライトの下にダブルシンクが組み込まれたステンレスカウンター、バーナー横のカウンター収納は客席から見えるのでオーク材のオイル仕上げとかなり凝ってる。
小林聡美の料理する姿や湯気がハイサイドライトからの光で浮かび上がる。
硬い木の床をゆくリズミカルな靴音、こんな感じのキッチン&ダイニングスペース暖かく、いいね。
最初でてきた書店内ティーラウンジ、白の大理石と金色のペンダント、ここはアアルトのアカデミア書店内「カフェアアルト!」。
「かもめ食堂」のイスもアアルト、映像からコーヒーの香り、おにぎりをほおばったときの感触なども伝わってくる。

ところで「かもめ食堂」ではないがヘルシンキ駅の北に「ユトゥトゥパ」というパブがありヘルシンキ中央駅を起点としてアアルトの建築を、くたくたになるまで見て回った夕暮れ、晩飯はたいていここに来た。
あるとき一人で食べていると男の子がテーブルの向こう側から顔を覗かせこちらをじっとみている。その子を注意しながらも母親に誘われテーブルを移した。
お母さんのカリタは劇作家、フィンランディアホールと湖を隔てた反対側にあるシレン設計の演劇専門ホールを俳優のマイサと共に、控え室にいたるまでつぶさに案内してくれた。
後にここで見た劇はソ、フィン戦争を扱っていて、ステージに張りぼてだけれど戦車が出てくる。フィンランド軍が勝つとやいのやいのの拍手、昔からロシアの脅威にさらされ当時はKGBもヘルシンキ市内に潜んでいる?頃で露骨にソビエト批判は出来ないが、絶えず大国の脅威にさらされているうさを演劇で晴らしているように思えた。
そういえばフィンランディアホールのコンサートトイレ休憩の際も並んで用を足している老人が話しかけてきた、あなたの国はすごい、小さな国なのに大国ロシアを打ち負かしたと、日露戦争時代のことをさわやかな顔で語りかける。
「ユトゥトゥパ」はカリタ,ヨルマ夫妻の仲間が集まるところ、カメラマンや弁護士、鉄道技師など多くの仲間と知り合いに。暫くクリスマスカードを通じて文通したが今は行方知らず、写真は25年前よく通ったサーリネン設計のヘルシンキ中央駅。

2007/04/13

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